〜障がい者は少しの不自由さを持った同じ“人間”
代表取締役 且田 久雄さん
南国ICから約5分の場所に工場を構える株式会社ダックス四国では、スーパーやコンビニエンスストアで販売されるお惣菜や料理を入れるポリスチレン製の透明容器や透明の蓋(簡易食品容器)製造しています。
同社を取材で訪れた時、従業員たちは休憩中で談話したり、食事をしたりと、どこの職場でも見られる風景がそこにありました。
且田久雄社長は「今居る従業員の大半が障がいを持った人なんです。一見、健常者と変わらないでしょう?」と話してくれました。

■障がい者の事を全く知らなかった
且田さんと障がい者との出会いは、明治学院大学社会学部時代のこと。同学院の教授で障がい児心理学を講じる傍ら、障がい者教育の実践面で活躍していた故・山本晋先生から、高知県土佐市に建設される知的障がい者の総合施設「光の村」の立ち上げを手伝うため送り出されました。
「障がい者のシの字も知らなかったけど、一緒に居た知的障がいを持つ小中学生が熱心に作業を行い、日々変わっていく姿が印象的でしたね」と且田さんは当時を振り返ります。
そして、且田さんは大学卒業後、「光の村」の職員として働き始めます。“知的障がい者の職業的自立”を目標に、障がい者のための施設作りや作業学習を行いますが、現実は厳しいものでした。
卒業後、就職しても会社に馴染めず、すぐに辞めて施設に戻ってきてしまう生徒や、知的障がい者を雇う企業の少なさや安定雇用&収入には程遠い企業の実状などを目の当たりにした且田さんは、「どんなに教育や指導を通して能力を伸ばしても、受け皿となる企業がないと、生涯の生活が保障されないと意味をなさない」と、自ら障がい者の働く場を作ろうと決意します。
■知的障がい者がイキイキと働く姿に感動
「光の村」の作業学習で、福山パール紙工(株)(現・(株)エフピコ)と親交があったことで同社の包装資材などを販売する「株式会社モダンパック四国」を1981年に設立します。
「知的障がいがあっても、適切な助言と指導があれば労働者として十分に働けることは確信していましたが、販売会社であることから知的障がい者の雇用は難しかったですね」と且田さん。
やがて、(株)エフピコのグループ内に知的障がい者が働く株式会社ダックスがあることを知った且田さんは同社を見学し、そこで働く知的障がい者のイキイキとした仕事ぶりに感動したそうです。そして、1995年に株式会社ダックス四国を立ち上げました。
■“できない”からであきらめず、“できる”を伸ばしていく
特例子会社では障がい者が主役の会社。彼らが積極的に働いてくれないと、会社は回りません。それはダックス四国も同じ。こちらでは従業員の約8割が障がいを持った人です。
「どんな障害を持った人でも、条件さえ整えば働くことができる。“できない”と可能性を潰すのではなく、“できる”力を伸ばすことで企業の戦力に成り得るはず」という理念から、知的障がい者の雇用については全て正社員(週40時間労働)として雇用契約を結びます。最低賃金減額措置申請はせずに、健常者に近い給料を提供。就業規則なども一般の社員と同じで、実績に応じて昇給や昇進、年1回の社員旅行も用意されています。現在、5人の知的障がい者が主任として活躍しています。
選考時には、本人の就労意欲と情熱、ある程度の身辺自立などを見る他、障がいの重度にも重点を置きます。
これは、「重度の障がいだと言われていても実際に働いてみると、無理だろうと思われた仕事ができたりする。本人のやる気次第だと思います」。「100の仕事の中で、1人が10しかできない。それなら他の人が残りを補えばいい。できない人は少しでもできるように、できる人は 他の人のフォローができるように。それがチームワーク、組織というものだと思いますね」と且田さんは言います。
株式会社ダックス四国は2勤制で夜勤もあります。障がいを持っているからと安易な仕事を担当させることなく、健常者と同じように仕事にあたらせる。「8時間労働でもしんどいのに、夜勤なんて」と詰め寄る障がい者の親も居ましたが、「それは健常者も一緒です」と説得したこともあるそうです。
■仕事を通じて、社会人としての誇りを持っていく
且田さんが印象に残っている風景に、健常者がうなだれて出社する中、知的障がいを持つ従業員がスキップをしながら意気揚々と出社してきたというのがあるそうです。
また、自分が居ないと作業が回らないと誇りを持って仕事に臨む障がい者も多いそうです。
「仕事をすることで自分が必要とされている、社会に貢献しているということを彼らは強く実感している。仕事とはお金を得るためでもありますが、本来はそういった喜びを感じるためにあるのではないでしょうか」と且田さんは言います。
障がい者の定着率は95%、欠勤も少ないということからも、仕事に対する姿勢や情熱を感じることができます。
■障がい者も人間、対等の目線で交流を
こちらで働く知的障がい者は20代の若者が多く、同年代の一般社員と休日には一緒に遊びに行ったりすることも多いそうです。親や周囲が「迷惑を掛けるかもしれないから」と懸念しますが、「同僚と遊びに行って迷惑を掛けてしまうのは健常者だってあること。迷惑を掛けたり、失敗することで反省して人は成長していく。障がい者は暮らしていくことでの不自由さを持っているだけで同じ人間なんです。人が同僚と遊びに行ったり、自分の給料で買い物をしても、何も変じゃない。そう思いませんか?」と且田さんは熱を込めて話します。
■夢は知的障がい者が株主の会社の株式上場
且田さんはダックス四国の業務の他、様々な企業と協力したり、アドバイスを与えて知的障がい者が働ける環境を広げようとしています。同じように知的障がい者を雇用したい、特例子会社を設立したいと手を上げる四国の企業も多いそうです。
「知的障がい者主体の会社を作り株式上場することが目標ですね。社員が株主になって配当を得ることで、生活がますます豊かになっていく。そうなれば、彼らを取り巻く環境も変わっていくことでしょう」と話す且田さん。
情熱を持って、幾多のことに臨んできた且田さんならいつの日か成し遂げることでしょう。
(且田久雄プロフィール)
和歌山県出身。明治学院大学社会学部在籍時に、高知県土佐市の「光の村」設立に参加。同大学卒業後、「光の村」の職員として就職する。1997年、株式会社エフピコの特例子会社として株式会社ダックス四国を、2006年には株式会社ダックス佐賀を設立。業務の傍ら、障がい者雇用の拡大を目指し、各地で講演、企業へのアドバスを行っている。
<株式会社ダックス四国>
高知県南国市岡豊江村11
TEL:088-878-2311
FAX:088-878-2312
【主な事業内容】
簡易食品容器の成形・加工
【従業員数】63名(内、障がい者45名)
【資本金】10000万円
HP http://www.fpco.jp/